朝食を食べ終えたあと、もう一度自転車に乗って街をぶらぶらすることにした。
ナコンパノムでは、どうしてもメコン川沿いに足が向く。川が近くにある街は、それだけで歩いていて気持ちがいい。ただ、この日は少しだけ川沿いを外れて、街中の方へ入ってみた。
朝の時間帯だったので、街はまだ静かだった。
少し走ると、「Vietnam Town Nakhon Phanom」と書かれた門が見えてきた。

一角には、ベトナムのサムローのような乗り物やランタンが飾られている場所もある。

ただ、いわゆる中華街のように、看板がぎっしり並び、そこだけ別世界のように派手なエリアという感じではない。
門や飾りはある。
でも、観光用に作り込まれた街というより、昔からこのあたりにあるベトナム系の暮らしや食文化が、街の中に自然に残っているような印象だった。
古い食堂、低い建物、朝の支度をしている人たち。
その中に、少しだけベトナムの空気が混ざっている。
そんな一角で、一軒のレトロな食堂が目に入った。

店先では、おばちゃんが何かを作っている。
客は数組。中学生くらいのグループもいて、朝ごはんというより、軽く何かを食べに来ているようにも見えた。
近づいて見ると、薄い生地を作っている。
ライスペーパーのようにも見えるし、クレープのようにも見える。
「これは何?」
そう聞くと、返ってきたのは、
「パックモー」
ああ、これがパックモーか。

ナコンパノムの食を調べていた時に、何度か目にしていた名前だった。
ただ、タイの他の地域ではあまり聞いたことがない。少なくとも、バンコクやチェンマイで普通に見かける料理ではない。
腹はそこそこ満たされていた。
朝食を食べたばかりで、正直そこまで空腹ではない。
でも、こういうものは見つけた時に入らないと、たぶん後で後悔する。
結局、迷わず店に入った。
店を閉めても、この癖はなかなか治らない。
パックモーは、米粉系の薄い生地で、豚肉やネギなどの具を包んで食べるベトナム由来の軽食のような料理だ。
重たい食事というより、朝や昼前に少しつまむのにちょうどいい。
今の腹具合には、むしろちょうど良さそうだった。
とはいえ、メニューを見ると種類はいくつもある。

何を頼めばいいのか迷って、店の人に聞いてみた。
店の人というより、多分近所の人も混ざっているような、そういうゆるい距離感の店だった。
「何がおすすめ?」
すると、これだと教えてくれた。
じゃあ、それで。
店の人にすすめられたものは、だいたい注文する。
旅先では、その方が早いし、外れることも少ない。
朝とはいえ、ナコンパノムはかなり暑い。
自転車で少し走っただけでも汗が出る。
リオを一本もらって、まず喉を潤す。

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タイの地方の朝、食堂の椅子に座って、まだ本格的に動き出す前の街を眺めながら飲むビールは、少しだけ背徳感がある。
でも、暑い。
汗をかく。
たぶん、すぐに酔いも覚める。
注文したのは「ピッセー」。
タイ語で、いわゆるスペシャルのことだ。
麺料理の店でも、ピッセーと書いてあると、だいたい具が増えたり、全部盛りのようになっていることが多い。ここでも、どうやら普通のパックモーより少し豪華なものらしい。
しばらくして出てきた皿を見て、少し驚いた。
予習していたパックモーとは、見た目が少し違った。

ベースは確かにパックモー。
薄い生地で具を包んだものがある。
ただ、その上に白い煎餅のようなものが覆いかぶさっている。
パリッとした米菓のような食材で、このあたりではよく食べられているものなのかもしれない。
食べごたえはある。
ただ、朝食後のこの腹具合なら、正直シンプルなパックモーでもよかったかもしれない。
添えられているタレは、見た目だけで言えばスイートチリソースのようにも見える。
でも、食べてみるともう少し魚醤の気配があり、酸味と辛さもある。シーフードソースに近い方向の、タイらしいキレのある味だった。
これを好みで少しつけて食べる。
薄い生地のやわらかさ。
中の具の軽い旨味。
そこに、辛くて酸っぱいタレが入る。
これは、つまみだ。
朝から食べる軽食でもあるのだろうけれど、ビールを飲んでいる側からすると完全につまみだった。
辛さと酸味が、リオをするすると進ませる。
ナコンパノムは、タイでありながら、ベトナムやラオスの気配が自然に混ざっている街だと思う。
派手な観光地ではない。
でも、自転車で少し路地に入ると、こういう食に突然出会う。
川沿いの景色もいい。
メコンを眺めながら飲むビールもいい。
でも、こういう朝の食堂で、名前だけ知っていた料理に偶然出会う瞬間が、旅の記憶には案外残る。
腹は完全にいっぱいになった。
それでも、食べてよかった。
土地の食は、腹の空き具合だけで判断すると逃してしまうことがある。
部屋に戻って、少し休むことにした。

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