メコン川のディナークルーズを終え、船を降りた。
まだ宿へ戻るには少し早い。
せっかくなので、そのまま川沿いを歩いてみることにした。
ナコンパノムでは、週末にナイトマーケットが開かれるらしい。
タイは暑い国なので、日中よりも日が落ちたあとの方が、街が生き生きしてくることが多い。
昼間は静かだった道に、夜になると屋台が並び、人が集まり、音が流れ始める。
そういう変化を見るのも、タイを旅する楽しさのひとつだと思う。
ちょうどこの日は週末。
かなりいいタイミングだった。
歩いてみると、川沿いには屋台が並び、たくさんの人が歩いていた。
焼き物、揚げ物、甘いもの、飲み物、服、雑貨。
タイのナイトマーケットでよく見かけるものも多い。
でも、よく見ると、その土地らしいものも混ざっている。
カオニャオを入れる竹のかご。
ベトナムのノンラーのような笠。
ナコンパノムらしい、タイ、ラオス、ベトナムが少しずつ混ざったような品も目に入る。
かなり欲しくなった。
けれど、旅はまだ始まったばかり。
ここで嵩張るものを買うと、この先ずっと荷物になる。
今回は写真だけ撮って、買うのは我慢した。

カオニャオのかごや、ベトナムの笠のようなものも並んでいた。

フード系の屋台も気になるものが多かった。
なかでも目に入ったのが、平たくまとめたもち米を炭火で焼いた、カオチーらしきもの。
日本の感覚で言えば、焼きおにぎりのようにも見える。
イサーンやラオスらしい食べ物で、見るたびに気にはなる。
ただ、これが意外と食べるタイミングが難しい。
食事というほどではないけれど、軽くつまむにはもち米なので腹にたまる。
旅先では、このあとに食べたい料理もある。
だから結局、いつも「今じゃないな」と思って通り過ぎてしまう。
今回も、また食べるタイミングを逃した。
そもそも、さっきまでディナークルーズでしっかり食べていたので、さすがにお腹はいっぱいだった。
食べたい気持ちはある。
でも、身体はもう受け付けていない。
こういう時に無理をすると、旅の後半に響く。
今回は見るだけにした。
歩いていると、あたりから聞こえてくる音が、やはり土地柄を感じさせる。
モーラムだ。
タイのナイトマーケットは、どの街でも似たような屋台が並ぶことはある。
でも、流れている音や、集まっている人の空気は土地によって違う。
ここはやっぱりイサーンなのだと思った。
高校生くらいの男の子が、ケーンというイサーンの管楽器を吹いていた。

近くでは、おばあさんがモーラムに合わせて身体を揺らしている。
その姿を見て、思わず顔がにやけた。
ああ、イサーンに来たなと思った。

モーラムが流れるナイトマーケット。音まで土地の空気を作っていた。
昼間に中心部のお寺で見かけた催しの流れなのか、伝統舞踊のようなものも披露されていた。
人だかりができていて、自分もしばらく足を止めた。
特別な予定を立てていたわけではない。
ただ歩いていただけなのに、こういう場面に出会える。
旅先の夜には、そういうおもしろさがある。

夜の街で披露されていた伝統舞踊のような催し。
さらに歩いていくと、昼間から何度も視界に入っていた大きなナーガ像が見えてきた。
ナーガは、メコン川流域の信仰とも深く結びついた蛇の神様だ。
昼間に見る姿も印象的だったが、夜はまったく雰囲気が違う。
ライトアップされた姿はかなり壮大で、口からは水が流れている。
その水の動きもあって、妙にリアルに見える。
近くには、多くの人が集まり、手を合わせて祈っていた。
自分もその場で手を合わせた。
観光地として見るだけではなく、地元の人たちにとって大切な場所なのだと感じる。

ライトアップされたナーガ像。昼とは違う迫力があった。
この日は、特に何かを買ったわけではない。
食べ物もほとんど見て回っただけ。
それでも、ただ歩いているだけで楽しかった。
子どもの頃に行った縁日のような感覚が、少し蘇る。
昔の自分なら、こういう場所に来ても、何か店で使えるものはないか、売れるものはないか、そんな目で見ていたと思う。
それはそれで、自分にとって大事な時間だった。
でも、この日は違った。
何かを探すためではなく、ただその場を楽しんでいた。
モーラムが流れ、屋台の明かりが並び、人が歩き、川の近くでナーガ像が光っている。
それだけで十分だった。
何も買わないと言いながら、最後にセブンイレブンでビールだけは買った。

タイの夜は、これくらいの締め方がちょうどいい。
宿へ戻り、ナコンパノム初日の夜は終わった。


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